体の痛みを根本的な部分から解決する -介護施設で働くあん摩マッサージ指圧師の思い-【後編】

望月さん画像

通所介護事業所で、機能訓練指導員として働く望月三苗さん。>>詳しくはこちら

機能訓練指導員の仕事は、利用者の運動機能の回復を目的に施術を行うこと。その行為を、「癒やされる」「気持ち良い」で済まされてしまい、根本的な「体の痛みを解決する」までに至っていないことに違和感を覚えていました。

確かに、ただ「癒やされたい」のであれば専門の施設を利用すれば良いわけで。「癒やし」だけを求める人が望月さんの施術を受けている間、真剣に「自分の力で何でもできるようになりたい」と考えている人が適切な訓練を受けられない可能性もあるわけです。これは……複雑です。

ただの「リラクゼーション」ではなく、より効果的に運動機能を回復するにはどうしたら良いのでしょうか。考えた末、望月さんは副業として「整体サロン」を立ち上げることにしたのです。

器械体操をきっかけに整体の道へ

体操画像

整体について学ぼうとしたきっかけは器械体操

たくの

福祉業界の話を伺うつもりが、ちょっと予想外の展開になってしまいまして、なんだかすみません
いえ、こちらも、もともとが“福祉畑”の人間ではないもので……

望月さん

たくの

あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師となると、括りとしては「医療」になるんですかね
そうですね。“医療畑”ですね

望月さん

ここで私、一旦、福祉から離れてみることにしました。医療に携わる立場の望月さんを掘り下げてみたくなったのです。

たくの

なぜ、あん摩や指圧を勉強しようと思ったのですか?
実は私、器械体操を習っていたんです

望月さん

たくの

奇遇ですね! 私もモダンバレエを習っていたんです!
あ、そうなんですか!?

望月さん

ああ、なんだか親近感が湧いてきました。そして、望月さんがあん摩や指圧の方面に進んだ理由もピンと来ました。

もともと、そういう体を動かすことをしていたので……。体をケアする方法を学ぶことに興味を持ったんです

望月さん

たくの

やっぱり!
ふふ(笑)

望月さん

たくの

それで、専門学校に進まれたんですね? 一応、あん摩や指圧について学べる大学もありますけど
大学ではなく専門学校ですね。3年間、勉強しました。自分が通っていた学校では、あん摩マッサージ指圧師はもちろん、はり師きゅう師の免許も取得できたんです

望月さん

たくの

それは、潰しがきくのでありがたいですね
(笑)

望月さん

いや、はり灸について学ぶのも大変かと。以前、同じような勉強をしている大学生に取材した時は、毎日のように勉強して、実習に行って、自分の時間もなさそうでしたから。

たくの

専門学校を卒業した後、すぐに就職したんですか?
はい。治療院で7、8年勤めた後、開業しました

望月さん

たくの

開業! (カッコいい……)
それで、12、3年くらい営業して閉めました

望月さん

たくの

え、なんでですか? いかにも「手に職」って感じで将来安泰な気もしますが
それは、ちょっと、やんごとない事情がありまして……(ごにょごにょ)

望月さん

たくの

おお……(書けない)

まあ、なんというか、治療院を経営するにもいろいろあるということです(汗)。

施術の目的は「癒やし」ではなく「運動機能の回復」

施術画像

施術を行う望月さん

治療院を閉めた後、通所介護事業所で機能訓練指導員として働き始めた望月さん。仕事を続けていくうちに、「運動機能の回復」ではなく「癒やし」を目的に利用する人がいることに気づきました。

たくの

これは、なんとも難しいところですね……
結果的に「痛くなくなりました」ということになれば良いんですけど

望月さん

たくの

きっと、施術の最中に雑談をすることもありますよね
はい

望月さん

たくの

その雑談を楽しみに来所している利用者さんもいそうですよね
そうなんですよー

望月さん

たくの

だけど、お喋りしたからといって体が良くなるわけではありませんよね
そうなんです!

望月さん

「医療畑」で仕事をしてきた人にとって、身体機能の回復が目的ではなく「癒やし」を求めてくる人を相手にするのは、かなり歯がゆいことなのでは……? なんとなく、そんなことを思いました。

「マッサージ」だと一時的な痛みを取り除く対処療法になってしまって、根本的に痛みを取り除くことはできないんです。それで、現状をどうにかできないかなと思って、施術に“整体”を取り入れることにしました

望月さん

たくの

それは、指導員として?
いえ、整体サロンの業務のひとつとして

望月さん

たくの

あ、整体サロン!
はい。随時予約制で自宅訪問も行っていますが、施設でも施術をしているんですよ

望月さん

望月さんの本領発揮というところなのでしょうか。

たくの

整体と聞くと、体をバキバキするイメージがあるのですが、それを介護が必要な方に行っても大丈夫なものなんですか?
私が行っているのは、筋肉に抵抗を与えながら関節を動かす「関節運動」なんです

望月さん

たくの

はあ
腕や足に抵抗を与えながら関節を曲げたり伸ばしたりすることで、筋肉の緊張を和らげることができるんです

望月さん

たくの

へー! それなら、大丈夫そうですね
筋力は、歳を重ねるにつれてどうしても衰えてしまうんです。でも、整体=運動療法を取り入れることで、筋力の落ちるスピードを遅くする効果も期待できるんですよ

望月さん

人の体ってスゴい! 

ただし、1回施術して「はい、おしまい」ではなく、自宅でもご自身でケアしていただく必要はあります

望月さん

たくの

(医療者の顔だ……)

利用者さん自身の力で痛みを治すお手伝いをしたい

望月さん2画像

望月さんに施術してもらいたい……

たくの

福祉と聞くと「相手の心に寄り添う」とか「優しく接する」みたいなイメージがありましたが……。望月さんは、もとが“医療畑”の人だから、ちょっと違いますね。ちゃんと「ダメなことはダメ」と伝えてくださる感じがします
そうですね(笑)。私、利用者さんに「どこが痛いですか」とか聞かないんですよ

望月さん

たくの

ええ!
体を触れば、どこが悪いのか分かるので

望月さん

たくの

カッコいい!
人が本当に痛みと感じるのは、1ヶ所だけなんです。ある場所の痛みが取れると、次の痛みが出てくる。次から次へと痛みを取り続けていたらキリがありませんし、それこそ「依存」に繋がってしまいますから

望月さん

つまり、ピンポイントで1番悪そうな場所を狙って施術をするということ。治療院で長年培ってきた経験がものを言うってこういうことなのかしら……。

利用者さんは、「体が良くなるか不安だ……」という気持ちを抱えている人も多いんです。だから、その不安を取り除きつつ、自分の力で体を治す方向に持っていけたらと思っています

望月さん

たくの

誰かに「依存」することなく……?
はい! みんなが元気で健康でいてくれれば、それで十分です

望月さん

当初、イメージしていたものとは、全く違った方向に進んだ今回の取材。しかし、元医療従事者の視点から福祉業界についてお話を伺えたのは、ものすごく貴重でした。

「みんなが元気で健康でいてほしい」

この言葉に、望月さんの思いが詰まっていると思います。今回のインタビュー、無事に着地できて良かったです(笑)。

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